1 開催概要
2018年9月15日(土)に Agile Japan 2018 長崎サテライト with 長崎を以下のように開催しました。本イベントについて、当日実行委員・NaITE運営スタッフとして参加したすずき、角田、手島、木村にて、簡単ではありますがレポートいたします。
開催日時 | 2018/9/15(土) 12:00 ~17:00 | ||
開催場所 | 長崎県 長崎市 長崎市立図書館 新興善メモリアル 会議室2 | ||
プログラム | 12:00〜12:10 | ■オープニングセッション | 池田 暁 氏 (NaITE) |
12:20~14:10 | ■Agile Japan 2018 基調講演1「モブプログラミングと”フロー”の力」(録画上映) ■Agile Japan 2018 基調講演2「JapanTaxiの挑戦」(録画上映) |
Woody Zuil 氏 川鍋 一朗 氏 |
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14:10~14:20 | 休憩 | ||
14:20~14:45 | ■Agile Japan 2018 レポートセッション
「コミュニケーションから始めるアジャイル」 |
手島尚人(まおちゃ) 氏 | |
14:45~15:15 | ■セッション
「レジリエンス工学の手法によるアジャイルプロセスのモデリング」 |
日下部 茂 氏 | |
15:15~15:40 | ■ライトニングトークス 1件目「ニコカレという名のアジャイルプラクティス(仮)」 2件目「インセプションデッキ:やらないことリストとトレードオフスライダーをやってる話」 3件目「KPTは2回目が大切なのに…」 |
手島尚人(まおちゃ) 氏 |
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15:50~16:20 | ■招待講演 「知識集約型の製品開発においてプロダクトオーナーがやるべき3つのこと」 |
関 満徳 氏 | |
16:20~16:30 | クロージング | 手島尚人(まおちゃ) 氏 |
2 Agile Japan 2018 長崎サテライト with NaITE
Agile Japan 2018 長崎サテライト with 長崎 は次の方々による実行委員会にて企画開催されました。
- 実行委員長
- 池田 暁 (日立オートモーティブシステムズ)
- 手島尚人(NaITE)
- 実行委員
- 大月 美佳(佐賀大学)
- 日下部 茂(長崎県立大学)
- ツノダ シュン(NaITE)
- 会場スタッフ
- すずき しょうご(NaITE)
2 セッションレポート
Agile Japan 2018 長崎サテライト with NaITEは講演者のご協力をいただき、充実したプログラムとなりました。
本章では、次のセッションについて簡単にレポートいたします。
- Agile Japan 2018 レポートセッション「コミュニケーションから始めるアジャイル」
- セッション「レジリエンス工学の手法によるアジャイルプロセスのモデリング」
- ライトニングトークス
1件目「ニコカレという名のアジャイルプラクティス(仮)」
2件目「インセプションデッキ:やらないことリストとトレードオフスライダーをやってる話」
3件目「KPTは2回目が大切なのに…」
招待講演
「知識集約型の製品開発においてプロダクトオーナーがやるべき3つのこと」
3.1 Agile Japan 2018 レポートセッション 「コミュニケーションから始めるアジャイル」 手島尚人(まおちゃ) 氏
3.1.1 はじめに
最近、アジャイルという言葉が本当に普段の会話ででてくるようになりました。アジャイルはソフトウェア開発以外の分野からも使われるようになり、現在ではアジャイルという言葉は、手法にとどまらず、働き方の一部として認知されてきたようです。
本セッションでは、手島尚人(まおちゃ)氏に、Agile Japan 2018 の当日の様子をお伝えいただくとともに、当日のセッションでも沢山語られた、アジャイルに取り組むための下地である「コミュニケーション」にフォーカスしてお話しいただきました。
3.1.2 レポート報告
3.1.2.1 アジャイル開発にまつわるいろいろな話
まず、そもそもアジャイル開発に向いているとか、向いていない案件とは何でしょうか?という問いかけから始まりました。一般的には、基盤技術が変わらない案件はアジャイルである必要が薄い、と言われているとのことです。
また、アジャイル開発であれば全てうまくいくかというと、そんなこともない。アジャイル開発で紹介されているプラクティスの導入イコールアジャイル開発という人もいますが、それも違う。
「アジリティの高いチームによってもたらされるのがアジャイルである」と言われます。では、どうすればアジリティの高いチーム作りができるのでしょう?今日は、その土壌づくりにフォーカスしてお話しいただきます。
3.1.2.2 アジャイルとチームワーク、そして心理的安全とコミュニケーション
Agile Japan 2018では、「チームワークとしてのアジャイル -強いチームの作り方-」というセッションのなかで、倉貫氏(株式会社ソニックガーデン)、仲山氏(仲山考材株式会社・楽天株式会社)、天野氏(サイボウズ株式会社)の3名のスピーカーが、チームワークにフォーカスしてお話しされていたそうです。
チームの成長モデルであるタックマンモデルによると、チームには4つの段階ステージ、すなわちフォーミング(形成期)、ストーミング(混乱期)、ノーミング(規範期)、トランスフォーミング(達成期)、があります。チームメンバ全員がこの地図を理解し、早めにストーミングを経験すれば、平和的・効率的にチーム作りを行えそうです。ストーミングするうえで最も重要なもの、それが心理的安全性です。ではどうすれば心理的安全性を担保できるのでしょう?スピーカーのみなさんは、チーム数を4人までにしている(倉貫氏)、アンガーマネジメントゲームをする(仲山氏)、評価に関係ないことを強く言う(天野氏)ということを意識されているとのことでした。また、まおちゃ氏は心理的安全性を高めるためにニコカレを取り入れている、とのことです(ニコカレについては、ライトニングトークを参照ください)。つまり、コミュニケーションが活発になることで心理的安全性が高まり、結果として強いチームが出来上がる、ということです。
3.1.2.3 モブプログラミングと”フロー”の力(Woody Zuill氏)
このセッションでは、モブプログラミングを導入して効果が得られた話や、モブプログラミングとフローの関係性についてお話しされたそうです。
モブプログラミングで生産性が上がるか?という問いに対しては、わからない、というのがWoody氏の答え。ただ、モブプログラミングは「どうすれば効果的に仕事が行えるか」にフォーカスしており、個人の効率というよりはチームの効率に主眼を置いている、ということではないか、とまおちゃ氏は考えます。さらに、Woody氏はモブプログラミングを取り入れたことで、より有益で品質の高いものが作られるようになったと言っており、それは、チームメンバ一人ひとりの相互作用・対話・関係性がもたらすものが大きかったからに他ならない、つまりチームは本来一緒に仕事をするべきであり、チームであることを自覚できると、より効果的であり、コミュニケーションが活発になることで理想的なチームに近づいていくのではないか、とまおちゃ氏は分析しました。
また、Woody氏は「フロー」の概念についても紹介していました。フローには心理的フローとリーンフローがあり、心理的フローはいわゆる「ゾーン」に入っている状態、リーンフローはマルチタスクがない状態、だそうです。フローは基本的にチーム全体の目的や成果に対してフォーカスしていますが、フローの中に、個人個人の目的達成にはフォーカスしていないか、というとそういうわけでもないみたいです(例:バンドなど)
3.1.2.4 まとめ
チームによってパフォーマンスが上がる働き方は色々です、とまおちゃ氏は言います。アジャイル開発のプラクティスの、どのプラクティスを取り入れるかは、自分たちで選択することができるので、自分たちのスタイルに合うようにカスタマイズすればよいのです。
職場がうまく回るためには、そのための土壌が必要であり、まずは心理的安全性の担保からのコミュニケーションが第一だ、と改めて強調されて、まおちゃ氏の熱いプレゼンは終わりました。
3.2 セッション「レジリエンス工学の手法によるアジャイルプロセスのモデリング 日下部 茂 氏
3.2.1 はじめに
このセッションでは、並列処理・ソフトウェア開発プロセスなどの研究に従事されてきた長崎県立大学の日下部教授から、レジリエンス工学的観点から見たアジャイルプロセスについてお話ししていただきました。
氏は始めに、「アジャイルでやれば何もかもがうまくいく」わけではないと話され、その中で新しい安全分析手法としてレジリエンス工学を紹介されました。
3.2.2 レポート報告
3.2.2.1 新しい分析手法
得てして人はエンジニアリングを行う際に、物事が「悪い方向に行かないこと」を目指してしまいがちですが、「正しい方向へ向かうこと」を検証していくことで安全についての分析ができるのではないか、とおっしゃられていました。そうした中で「レジリエンスエンジニアリング」を用いることによって分析が深掘りしていけるのではないか、ということです。
3.2.2.2 レジリエンスエンジニアリングとは
レジリエンスとは「弾性・しなやかさ・回復力」といった意味を持つ言葉です。ことソフトウェア開発の分野においては「様々な外的要因による変動に合わせることができ、手法を変化させつつ柔軟に対応する」能力のことを指します。
氏は、この特性に注目し、「柔軟性や適応力」を利用し、「変動に対して適応できる能力」を高めることができれば安全性につなげていけるのではないか、と考えています。
(反面、アジャイルに適応することは安全のリスクにもなり得るとのことでした)
具体的な手法としては次項の共鳴分析手法(FRAM)が挙げられます。
3.2.2.3 共鳴分析手法(FRAM)とは
共鳴分析手法とは、システム機能間の依存性や結合性をモデル化して分析する手法のことです。出力変動の可能性を分析し、コントロール可能な変動の最大化とコントロール不可能な変動の最小化を検討します。
ここでいう変動には3つの要因があり、それぞれ機能の「内的変動」、「外的変動」、「上流機能の変動の影響」が挙げられます。
アジャイルでは早い段階で価値が提供できているかどうかを確認することが可能です。
そしてレジリエンスエンジニアリングを適用しモデリングすることによってプロセスの特徴を把握し、プロセスの勘所を押さえるヒントになり得る、と氏はおっしゃっていました。
現在研究を進めている段階とのことですが、これからに期待が高まる素晴らしい発表でした。
3.3 ライトニングトークス
今回のAgile Japan 2018 長崎サテライト with NaITEでは、ライトニングトークスとして、手島尚人(まおちゃ) 氏、吉武 伸泰(@yoshitake_1201) 氏、松谷峰生(@mty_mno)氏の3名の方にご登壇いただきました。
持ち時間5分!という短い時間ながら、お三方とも興味深いお話をしていただきました
3.3.1 ニコカレという名のアジャイルプラクティス 手島尚人(まおちゃ) 氏
アジャイルのプラクティスの一つであるニコカレ(ニコニコカレンダー)のアプリを作成したというお話でした。
その日の気持ちを表現し、可視化することができるのがニコカレです。
気持ちを表現して、共有することで、仕事も私生活もうまく行くようになるのではないかということでした。
作成しているアプリは実際にデモをしていただき、実際に動いている物を見せていただきました。
実際の動作を見て、参加者のみなさまにもニコカレがどんなものか理解しやすかったと思います。
3.3.2 インセプションデッキ:やらないことリストとトレードオフスライダーをやってる話 吉武 伸泰(@yoshitake_1201) 氏
テスト担当者としてチームに入り、テストの指針がブレるという状態をインセプションデッキで解決してみた、というお話でした。
高品質なものを低コスト、低納期で作成したいが、それは難しいので、「やらないこと」、「何を諦めるか」をチームに共有したということでした。
また、トレードオフスライダーを使用し、優先度や作業の方向性を共有したということでした。
インセプションデッキは一人からでも活用出来るということでしたので、みなさま、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
3.3.3 KPTは2回目が大切なのに… 松谷峰生(@mty_mno)氏
継続的にKPTを使用するにあたって、前回のKPTの結果がうまく引き継ぐことが重要だというお話でした。
プロジェクトの振り返りでKPTはよく使われている。ただ、2回目以降のKPTがあまり実施されていないのではないか、ということでした。
2回目以降のKPTでは、前回のTryは本当に実行できて、Keepに移動できるか、もう習慣化されているものはKeepからは外すか、などの前回のKPTの結果を見直すことが必要で、確認を怠っているとKPTが形骸化したものになるということでした。
なお、このセッションでは、トラブルにより、セッション資料なしの状態でLTが行われましたが、喋りのみでもとても分かりやすいLTとなっていました。
3.4 招待講演
「知識集約型の製品開発においてプロダクトオーナーがやるべき3つのこと」関 満徳 氏
3.4.1 はじめに
ここのセッションでは、グロースエクスパートナーズ株式会社の関 満徳氏より、今の時代のモノづくりの背景が変わりゆく中でプロダクトオーナーはどのような悩みを抱えているのか、またどのように開発に向き合えばよいか、といったテーマを中心に、「プロダクトマネジメント組織を中心とした価値創造の組織・仕組みを作る」ことが必要である、という内容でご講演いただきました。
3.4.2 レポート報告
3.4.2.1 「作る」から「使い続ける」へ
従来型の製品では、一度開発が終わったら、開発作業はそこでは終了してしまうことが多かったと思います。これは「一度作ったものは成長しない」ということです。しかし、今の製品開発においては、リリース後も成長し続ける、というように変わってきました。また、従来のシステム開発では、SoR(System of Record)で事実を正しく記録するためのシステム開発をウォータフォール型開発で行なってきました。しかし、近年では、SoE(System of Engagement)で顧客との結びつけを重視するシステムをアジャイル型開発で行なうように変化してきています。SoRが得意とするシステム、SoEが得意とするシステムはそれぞれ異なるため、そのどちらか一方のみでマネジメントを行うと破綻を招く恐れがあります。氏は、今求められていることは、SoRとSoEをバイモーダルで使い分けることだ、と言っています。
このような変化は、モノからコトへのパラダイムシフトが背景にあるからです。
3.4.2.2 「アジャイルとスクラムとプロダクトオーナー」
では、そのようなパラダイムシフトに対して、どのようにプロダクトオーナーは取り組めばよいでしょうか。従来型のプロセスでは対応することは難しいです。トヨタは、「無駄を省く」ということを行ない、最小コストで自動者を生産することで成功しました。またアメリカの工場を支援することで劇的に改善しました。これをソフトウェア開発に取り入れました。これが今の「スクラム」になっています。
プロダクトオーナーは、意思決定者(経営側)、顧客、現場、開発の関係者の結節点となりながら、「価値とは何か」「どんな世界を作りたいか」「何を作りたいか」「どう作るか」「いつ作るか」「どう広めるか」を考える必要があります。
3.4.2.3 「本来のプロダクトオーナー」
しかし、現状いろいろな問題が現場には散在しています。例えば、企画部門側が要件を決めたら、「これを全部作って」と開発部門に「丸投げ」したり、バックログに乗せるのに間に合わないのに「仕様書を読んで作って!」と言われたりします。これらは、製品開発のためのプロセスが整備・明確化されていないうえに、そのことを関係者が認識できていないことで起こる問題です。企画のビジネス上の決定から、実際に開発に進むまでのプロセスは、それを関係者全員が共有して理解すべきです。開発できるような内容でない、プロセスにはまらないようであれば、経営側に差し戻すようなことも必要です。こうしたプロセスがないために、プロダクトオーナーがすべてを丸抱えしてしまうのです。
こうしたことから、プロダクトオーナーがすべき作業の1つが「プロダクトマネジメント組織を中心とした価値創造の組織・仕組みを作る」ことが重要になるというお話をいただきました。
3.4.2.4 「プロダクトマネジャーのタスクの可視化」
発表後には追加の講演もいただきました。そこでは、プロダクトマネジャーのタスクが可視化されていないことから、そのプロダクトマネジャーがいなくなってしまったときに、プロダクト全体にダメージが及ぶ問題や、企画のためのR&D調査や運用のための調査が割り込まれてしまい開発が圧迫されてしまう問題などが説明され、参加者の間で非常に有益な議論がされました。
現在のスクラム開発によるプロダクトオーナーの問題や、解決へのアプローチの1例など、開発作業に対する改善に生かせるような内容でした。
以上
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