イベントレポート:5th 長崎QDG(software Quality and Development Gathering):水藤 倫彰さん


はじめに

2020年10月31日に開催された5th長崎QDGに参加したので、その感想を共有したいと思います。今回仲間が発表することもあり、その雄姿を見るべく愛知から参加しました。


https://nagasaki-it-engineers.connpass.com/event/184998/

長崎QDGは「ソフトウェアの品質と開発の技術を取り上げる技術カンファレンス」で、毎年長崎で開催されており、今回はその5回目の開催です。
コロナ禍の中でもオフラインで開催され、名前にあるGatheringにかける想いの強さが伺えます。
実際参加し、発表者の方の所作が見えるからか、発表内容以上にその気持ちが伝わってきました。直接会うことで伝えられる情報量の多さを改めて実感しました。

5th長崎QDG

今回は主に下記テーマのセッションが開催されました。

  • 長崎のソフトウェア産業の現在と将来について
  • 派生開発における技術
  • 自己研鑽の仕方
  • ITエンジニアの健康

技術カンファレンスですが産学だけではなく官の方からの発表もあり、産官学それぞれの分野の情報を得ることができました。また、医師の方も参加されており、ソフトウェアを中心に、でもソフトウェアに携わる人だけではなく集まり、議論できるのがこのカンファレンスの特徴と感じました。

場所

開催場所は長崎県長崎市にあるCO-DEJIMAというスタートアップ交流拠点(コワーキングスペースのような場所)でした。

会員登録していれば誰でも使えて(県外の人も!)、固定ブースでなければ基本無料で使えます。コワーキングスペースが増えていますが、だいたい有料ですし、仲間内で勉強会など開きたいときに気軽に使える場所があるのは非常にうらやましい限りです。

セッション概要・所感

長崎県における”Society5.0”と”デジタルトランスフォーメーション”の実現

【概要】

元経産省、現長崎県所属の三上さんの講演。
三上さんの長崎での使命は「Society 5.0とDXの実現」。そのために何が障壁になっているのか、県としての役割は何か、という話でした。
前半は画像や動画を踏まえて最新技術の動向(AR, VR, BMI, 空飛ぶモビリティ, etc…)と、コロナも含め不確実性の増加した世の中におけるリスク、主にサイバーセキュリティに関してご説明頂きました。
後半はそれら最新技術やリスクを踏まえた上で、組織がどのような対応を取っていくべきか、4つの対応指針を元に話してくださいました。

ポイント

  • 4つの対応方針
    • 攻め:今後を変える何かを見つけ、すぐに実現する組織
    • 守り:ビジネス・社会の変化を捉え、すぐに対応できる組織
    • 責任:環境・地域などの社会課題解決に資するビジョンを持つ
    • 連携:新しい技術・サービスの展開はオープン・イノベーション
  • DXの訳し方
  • Transformation by Digital
    デジタル「で」変える
  • Transformation to Digital
    デジタル「に」変える

【所感】

色んな分野の最新技術の動向が目白押しで、聞いていてとてもわくわくする講演でした。そこから考えられる未来は、実現したらおもしろそうなものがいっぱいあり、技術者としてそこに何かしら貢献できないかと考えを巡らせました。そしてそこで終わらずに、遠く未来を見た上で、じゃあその未来へ向かうには現実的に今何をすべきか、という話がとても参考になりました。

要求開発のニューノーマル ~フルキットを実現する USDM ~

【概要】

派生開発推進協議会(AFFORD) の古畑さんの講演。
プロジェクト遅延の原因の半分は要求開発にある。
要求開発が完了していない(実現したいものがわからない)状態で設計に入ることが根本的な問題で、それは近年注目されているアジャイル開発でも解決されていない。
アジャイルは開発スパンを短くすることで範囲を限定し、要求開発をしやすくしている。しかし、事前に開発完了したものと矛盾が生じれば、後戻りが大きくなり、結局プロジェクト遅延に繋がる。
この要求開発の根本的な問題に対する解決策として、故清水吉男さんの提唱したUSDM(Universal Specification Describing Manner)の説明をしてくださいました。

ポイント

  • USDM の要素
    • 要求(実現したいゴール)
    • 理由(実現したい理由)
    • 仕様(具体的な処理や振る舞い)

【所感】

私の周りにある“アジャイルな開発でとてもつらそうなプロジェクト”になっている仕組みがよくわかりました。また、USDMの要求を理由で支えるという考えも、確かに理由があれば要求はそこまでぶれないよな、と直感的にも理解しやすく、重要な考えを頂きました。

もってこ開発事例「地域テイクアウトサービスアプリの短期開発とその派生」

【概要】

株式会社アドミンの浦崎さんと長崎大学学生の小川さんがテイクアウトマッチングアプリ、こと消費マッチングアプリを開発した時の話でした。
浦崎さんは元料理人で、コロナ禍の中で苦しんでいる元同業者の方を見て開発しようと思ったそうです。
アプリはなんとか開発したものの、そこから得られた教訓を教えて頂きました。

ポイント

  • 品質は意識しないと成長しない
    料理の世界は、年配の人でも若い人に指示される世界。
    ソフトウェア開発でも同じことが言える。

【所感】

元料理人という異色の経歴の浦崎さんの話がおもしろく、料理人とソフト開発者、似たところがいっぱいあるのだなと感じました。料理と同じく、ソフトも品質が大事。自分の周りにも年齢は高いけど技術の話が通じない人がけっこういます…自分はそうならないよう、品質を意識し、常に成長し続けていこうと改めて思いました。

長崎 QDG サポーターセッション「うさぎ組」

【概要】

長崎QDGサポーター企業「うさぎ組」さんからの仕事の取り組み方についてのお話でした。
自分が継続してできたこと、継続できた理由をグループワーキングで振り返り、自分の中の“継続”するタイミングを見つける。ということをやりました。

ポイント

  • 自分にとってどんな種類のことが、いつやりやすいのか、やる気になるのかタイミングを見つけると仕事がやりやすくなる
  • ↑は組織単位でも同じ

【所感】

サポーター企業の発表なので宣伝もありましたが、自分の中でのタイミングを見つけた上で仕事に取り組むという新しい観点を頂けました。日頃の忙しさの中では目前にある仕事にばかり目が行きますが、その業務を行っている自分自身に目を向け、タイミングを知り、仕事をやりやすくなるよう自省したいと思いました。

AI vs テスト技術者 ~テスト技術者がこの先生きのこるには~

【概要】

長崎県立大学の喜多さんから、AIとテスト技術者についての話でした。
喜多さんはテストとAI、2つの研究経歴があり、前半はAIについての基礎知識、AIで奪われる仕事について話してくださいました。後半現場のテスト技術者の仕事の仕方について触れ、今はまだAIでカバーできる領域は限られていること、今後はAIを活用した効率化を図る必要があることを教えて頂きました。

ポイント

  • クリエイティブならAIに仕事を奪われない
  • クリエイティブな仕事の仕方をしていますか?

【所感】

AIの仕組みから、AIの得意とすること、苦手とすること、AIを使う上で注意しなければいけないことをわかりやすく(学生に教えるように)説明くださいました。
自分が関わるのはまだまだ先、と思わずにその特徴を捉え、活用する方法を考えていきたいと思いました。

集成塾 ~進化するエンジニアの自己研鑽~

【概要】

株式会社デンソーから小川さんの主宰している(私も参画する)集成塾についてのお話でした。
前半は、会社の中で発足したが、部署や会社の枠組みを超えた勉強会である集成塾について、これまでの経緯と活動内容についての話です。
後半は、1年間の活動を通して見えてきた、自分たちの成長を妨げる壁について共有し、今後その壁を乗り越えるために現場に踏み込み一緒に問題を解決する取り組みについての話です。

ポイント

  • メンバー同士が刺激しあって成長の継続を図る
  • 成長を妨げるのは実践の壁

【所感】

小川さんお疲れ様でした!
今回長崎QDGに参加された皆様から貴重なご意見を頂いたので、来年また長崎QDGの場で発表し、長崎を一緒に盛り上げていきたいと思います。

LT(ライニングトークス)セッション

  1. レッツ!水平思考!!
    NaITE長崎支部の要谷さんから、ロジカルシンキングと対比されるラテラルシンキングについてのお話でした。
    見えているものだけにこだわると、物事の本質を見落とすことがある。肝に銘じておかなくてはいけません…。
  2. セキュリティ関連の取り組み始めませんか?
    長崎県立大学の日下部さんから、昨今重要性が高まっているセキュリティ技術についてのお話でした。
    後半は勉強会開催のお誘いや大学の入学案内などでした(笑)

新型コロナ後のITエンジニアの健康を考えよう

【概要】

雪の聖母会聖マリアヘルスケアセンター国際保健センターの橋口さんから、ITエンジニアの健康についてのお話でした。
IT技術者の抱える健康的なリスクを様々なデータを元に説明して頂き、それを改善するための工夫についてもお話しくださいました。

ポイント

  • IT技術者の抱える健康リスク
    • 長時間拘束
    • 不規則な生活習慣
    • 偏った食生活
    • 短い睡眠時間
  • 高ストレス状態は健康リスクが高い
    • 技術レベルが高いほど高ストレス状態の人が少ない
    • 大企業の方が高ストレス状態の人が多い
  • 座る時間が長いと死亡リスクが高まる

【所感】

終始、“ですよねー”と思いながら話を聞いていました。普段体に気を使っていませんが、データからリスクがあることは丸わかり。これを機に自分の生活習慣を見直します…。
あと在宅勤務用に良い椅子も買います。

パネルディスカッション:ソフトウェアで長崎を変えよう —新しい時代の長崎ならではの産官学のエコシステム構築に向けて—

【概要】

長崎の現状について情報共有した上で、産官学のモデレータ・パネリストから今後どのように長崎を盛り上げていくかについて、他県での事例やアイデア、重要となるポイントが紹介され、その後に会場参加者も含めて議論が行われました。

ポイント

  • 長崎県内のソフトウェア企業の売上は、その従業員数に比例
    人員以外の付加価値をつけられていない証拠
  • IT活用には経営層のITリテラシーが必要
  • ニーズとシーズを結びつける活動が重要となってくる

【所感】

モデレータ、パネリストの全員から、長崎の今の状況を何とかしよう、盛り上げていこうという気持ちが伝わってきました。“ソフトウェアで長崎を変える”には、ニーズ(変えたいと思っている市町村や非IT企業)とシーズ(IT企業や大学)の結びつける活動が重要という議論を聞いた時、まさにこの長崎QDGがその活動になりうる(なっている)と思いました。

まとめ

長崎QDGはソフトウェア技術のカンファレンスですが、技術のみの話をするのではなく、長崎の将来を案じてそこに対してソフトウェア技術を当てていく、という見方をされていました。他のカンファレンスのような技術を突き詰めて議論をする場も良いですが、自分たちのもつ技術をどのように社会に役立てていくか、そのような議論のできるカンファレンスとして、来年も長崎QDGに参加したいと思います。

そして“Gathering”の名の通り、オフラインで開催されましたが、直接会って話ができ、気軽に質問ができる環境というのは有難いものだというのを改めて実感しました。様々な分野の人が集まっても、その間の垣根が高くて気軽に話ができないのでは、相乗効果は生まれません。来年も現地に集まって、長崎の将来について議論を交わしましょう!

おまけ:長崎観光

主催者の池田さんから色々おすすめを教えて頂き、長崎では食い倒れていました。

おいしい物がいっぱい、且つ同じ料理でも有名な店が複数あり、とても数日で食べきれるものではありません…。

一番印象に残ったのが、桃太呂の一口ぶたまん。飲んだ後家族へのお土産として買う人が多いそうで、午前3時くらいまで店が開いています。私は次の日の朝ご飯用に買いましたが、ホテルで風呂を浴びた後に匂いに惹かれてついつい食べてしまいました。できたてをくれますからね。しょうがないですよね。

長崎に詳しい人にアドバイスをもらえるのは長崎QDGのうれしいおまけですね。

まだまだ食べられなかったものがたくさんありましたが、それは来年の楽しみにとっておくことにします。


ツル茶んのトルコライス


江山楼の皿うどん


桃太呂の一口ぶたまん

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